校長通信 響き合う学校 2017年表彰式式辞
冬の弱々しい日光が日ごとに力を増し、みるものすべてに輝きを与えはじめています。
表彰されたみなさん、おめでとうございます。
今、「沈黙 サイレンス」という映画が多くの映画館で上映されていました。
遠藤周作氏の原作本をアメリカ人監督のマーティン•スコセッシ氏が製作したものです。
舞台はキリスト教が禁止された江戸時代初期の日本が舞台です。イエジス会の高名な学者であるクリストヴァン・フェレイラが、幕府のキリスタン弾圧に屈してキリスト教を捨てたという報告がローマに伝わってきます。フェレイラの弟子たちはその話が信じられず、弟子のポルトガル人宣教師セバスチャン・ロドリゴとフランシス・ガルペは真実を確かめるために、危険を承知で日本へいくことを決意します。途中で中国マカオに立寄り、そこで日本人のキチジローに案内を依頼します。キチジローはキリスト教徒でありながら、踏み絵を踏み、マカオへ逃げてきた日本人です。キチジローの家族は踏み絵を踏むことが出来ず、全員処刑されています。キチジローの案内で長崎県五島列島に到着した二人は出会った村の人たちに隠してもらいながら先生であるフェレイラを捜します。隠れキリスタンの村の人たちからは救いの神とされますが、村の人たち数人がキリストタンの疑いで拷問され、処刑されていく場面に出会い、救うことができない苦しみを体験します。二人が村にとどまれば、さらに村の人が拷問にあい、処刑されると知ったとき、二人は別々に逃げることを選択していきます。
その後、ロドリゴは味方だと思っていたキチジローに裏切られ、逮捕されます。そこで幕府からキリスト教を捨てることを執拗に迫られます。しかし、ロドリゴはどんな拷問にあい、どんな困難に出会ってもキリスト教を捨てることはしないことを決意します。
そしてその後、ロドリゴは彼らの先生であるフェレイラと面会します。フェレイラからはキリスト教の布教を日本ですることは難しい。キリスト教の信者がこれ以上、拷問され、苦難に遭わないようにキリスト教を捨てよ、とロドリゴは説得されます。
説得の最中に聞こえてくるのは拷問されている信者の声、その拷問はロドリゴがキリスト教を捨てない限り続くと聞かされます。ロドリゴは苦しみます。自分の信仰を守るのか、キリストの教えは苦しむ人々を救うこと、自分はどうしたらいいのか、悩むロドリゴに、フェレイラは自分も同じ苦しみのなかでキリスト教を捨てることを選択したと聞かされます。
そしてついにロドリゴはキリストが刻まれた踏み絵の前に立ちます。ロドリゴは踏み絵を前にして、足が痛みだし、キリストの像を踏むことを躊躇します。
苦しむロドリゴに踏絵のなかのキリストが語ります。
「踏むがよい。お前のその足の痛みを、私がいちばんよく知っている。その痛みを分かつために私はこの世に生まれ、十字架を背負ったのだから」。
そしてロドリゴは踏絵を踏んでいきます。打ちひしがれたロドリゴの前に裏切ったキチジローが許しを求めてきます。キチジローの裏切りに許せないと思うロドリゴに今度はキチジローの顔を通してキリストは語ります。「キチジローも苦しんでいたのだ、許せ」。その後、ロドリゴは江戸に移り、幕府から日本名をもらい、生涯、密かにキリスト教を信仰しながら、キリスト教の司祭という誇りをもって生きていきます。
繰り返される拷問や処刑、その中でも守り続ける信仰、踏み絵を踏んでも生きることを選択する生き方、苦悩しながらも、守るべきものは守るという生き方、人間とは何か、弱さと何か、強さとは何か、何を大事にして一生を生きるのか、などいろいろ考えさせられる作品です。1966年の作品で大学時代にこの小説を読み、1971年に篠田まさひろ監督の手で映画化された映画も見ました。
難しい小説、映画でしたが、自分自身の生き方、人間のあり方を深く考えさせられました。特に人間のありかたについてはいまだに考え続けています。
寺部だい先生の昭和36年、今から83年前の卒業式の式辞に人間のあり方に触れた部分がありましたので紹介します。
「私たちの毎日には、自己に与えられた仕事があり、これを果たすためには、十分な心構えと、努力、研究を必要とすることはいうまでもありません。自分に与えられた仕事に全力をそそぎ、些細な点にも絶えず、研究的態度を失わぬことは仕事成就(仕事をやりとげるために)の大切な条件となります。特有する力を出し切るとき、はじめて人間は進歩するものであります。」
遠藤周作氏は37歳の時、ある病気になり、肋骨7本と片方の肺を失なっています。生死をさまよいながらも、いかに生きるか考えていたそうで、その後に、生まれた作品が「沈黙」であったそうです。彼はロドリゴを裏切るキチジローが自分だと話しています。軟弱で、神も人も裏切り、しかし神に救いを求め続けるキチジローが自分だと言っています。
遠藤周作氏の本では紹介した「沈黙」の他に「深い河」「海と毒薬」の三冊を是非10代で読むことを勧めます。
どう生きたら良いか、人間の強さ、弱さ、賢さ、愚かさなどを考える上で、本はよい教科書です。自分の命を輝かせ、他者の命を輝かせることが人間の仕事、使命だと思います。そのためにも皆さんには今以上、豊かになっていって欲しいと願います。そのため本をたくさん読む人生を皆さんが選択する事を希望しています。