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校長通信 響き合う学校 2016年卒業式式辞

第68回卒業式式辞 

今日はよい天気に恵まれました。感謝します。

春の陽を あびて命は 育まれ
春の陽の光は新しい命を育む天の恵みです。

本日はご多忙のなか、安城市長神谷学さま、衆議院議員大西健介様、安城市議会議長の早川健一さま、安城市商工会議所会頭の田村脩さま、愛知県議会議員の柴田高伸様、安城市名誉市民の杉浦正行様、前参議議員の鈴木政二様、卒業生の出身校である中学の校長先生、先生方、市内の高校の先生方、同窓会の皆様、地域の諸団体の皆様、愛知県知事大村秀章様、衆議院議員大見正様、参議院議員酒井やすゆき様の各秘書の方、被災地の岩手県陸前高田市から福田利喜様、そして本当の多くのPTA役員,保護者の皆様方にご臨席をいただき「安城学園高等学校第六十八回卒業式」を挙行できますことを心から御礼申し上げます。ありがとうございます。

 445名の皆さん、卒業おめでとうございます。

 「地球儀をまわしてみると とまったところで その子がふりむく にっと笑う」新川和江さんの「勉強に疲れてちょっとひと休みのうた」という詩です。そして「言葉は違ってもきっときっと通じるよね。だって地球はこんなに丸いし、その上に住んでいるぼくらは同じ人間だもの。」と続いていきます。
 地球儀を回しながらいろいろな国の子どもたちに想いを馳せていく詩です。しかし、残念ですが現実の世界では,にっと笑う子どもだけでなく、戦火の中で逃げ回っている子どもがいます。学校へ行きたくても行けない子どもがいます。食べるものもなく、ひもじい思いをしている子どももいます。世界は何をやっているのか。申し訳なく、悲しくなることもあります。
 卒業生の皆さんにはそうした世界の現実に思いを馳せながら、安城学園で学んだ「真心、努力、奉仕、感謝」の四大精神を支えにして、平和で、皆が笑顔で暮らせる、心豊かな世界をめざして、マザーテレサさんのいう“大海の一滴”であって欲しいと願います。

 詩人の吉野弘さんに「夕焼け」という詩があります。

 いつものことだが 電車は満員だった。 
 そして いつものことだが 若者と娘が腰をおろし としよりが立っていた。 

 うつむいていた娘が立って としよりに席をゆずった。 

 そそくさととしよりが坐った。 礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。

 娘は坐った。別のとしよりが娘の前に 横あいから押されてきた。 
 娘はうつむいた。 しかし 又、立って 席を そのとしよりにゆずった。

 としよりは次の駅で礼を言って降りた。 娘は坐った。 
 二度あることは と言う通り 別のとしよりが娘の前に 押し出された。 
 可哀想に 娘はうつむいて そして今度は席を立たなかった。 

 次の駅も 次の駅も 下唇をギュッと噛んで 身体をこわばらせて―――。

 僕は電車を降りた。 固くなってうつむいて 娘はどこまで行ったろう。 
 やさしい心の持ち主は いつでもどこでも われにもあらず受難者となる。

 何故って やさしい心の持主は 他人のつらさを自分のつらさのように 感じるから。 
 やさしい心に責められながら 娘はどこまでゆけるだろう。

 下唇を噛んで つらい気持ちで 美しい夕焼けも見ないで。

 3度目に席を譲らずに座っている娘は自分を責めています。体をこわばらせて辛さをこらえている娘です。その姿に吉野弘さんは「人としてのどうしようもない優しさ」を感じます。

 なぜ、この娘は自分を責めているのでしょうか。娘は席を譲ることが礼儀作法、大切だということを知っているからです。

 “形と心が結びつき、お互いの尊敬や、譲り合いや、心遣いを表現するのに最もふさわしい形が礼儀作法です”。創立者寺部だい先生の言葉です。
 学ぶことは,知ることであり、知ることはやるべきことがわかってくることです。やるべきことがわかってくると、娘のようにつらさを体験することもあります。
 他人のつらさが自分のつらさになる、それが優しさです。つらさから逃げずに立ち向かっていく、そうした経験が子どもを大人にしていきます。他人のつらさがわかること、それが教養です。
 昨年11月のパリの爆弾テロ発生の時にシリア出身のアナウンサーは次のように発言しました。“敬愛するパリよ、貴女が目にした犯罪を悲しく思います。でもこのようなことは、私たちのアラブ諸国では毎日起こっていることなのです。”
 愛の反対は憎しみでなく無関心である、とマザーテレサさんは言っています。無関心が、知らないことが、教養のないことが、多くの人を悲しませ、人を傷つけています。多くの人を悲しませない、傷つけない、そのために学びが必要です。

 「独裁者と小さな孫」という映画が今年の1月に上映されました。独裁者として、国を欲しいままにしてきた大統領が、革命によって今度は逃げる立場に変ります。独裁者である時には何も見えていなかったことが、逃げまどうなかで、自分が犯した罪、自分の悪政に苦しむ国民たちの姿、本当にやらなければならないことが見えてきます。
 相手の立場に立って考える、相手に思いを馳せる、人の悲しみやつらさがわかる「教養」がすべての人に求められています。

 1月に入り、合唱部の人、弦楽部の人に応援して頂いて中米にあるグアテマラの小学校にリコーダーを500本贈りました。
 昨年在籍していたアフガニスタンからの留学生ロヤ•アジミさんは、安城ライオンズクラブや市民の方の支援で、今、愛知学泉短期大学に進学し、一生懸命勉強しています。

 応援する、支援する、交流することで人と人の距離、国と国の距離は近くなります。

 東北の被災地も同様です。5年間連続した被災地での演奏活動、ボランティア活動、学園祭での大船渡東高校の皆さんとの交流は被災地と安城市、被災地と学園の距離を近づけています。今日の卒業式にも岩手県大船渡市の市長様からはお祝いの言葉が届いています。 
 学ぶ、思いやる、考えるという動詞は近づく、支援する、行動するという動詞に繋がっています。
 卒業後も学びことを一生懸命、続けて下さい。学ぶことでいろいろな人への思いが広がり、いろいろなことを考えることができるようになります。
 安城学園で学んだということは創立者寺部だい先生の生き方と建学の精神を学んだということです。

「真心•努力•奉仕•感謝」の安城学園の4大精神を生きる支えにして、思いやりに溢れた、幸福で平和な社会をつくりだす、そのためにいろいろなことに挑戦して下さい。
“誰でも無限の可能性を持っている”という寺部だい先生の言葉のキーワードは挑戦です。

 苦手なことへの挑戦、得意なものをさらに得意にする挑戦、未知なるもの、新しいものへの挑戦、安城学園の100周年で掲げた3つの挑戦を、四大精神とともに大切にして下さい。

 今年の卒業生に贈る詩は福島県出身の長田弘さんの「最初の質問」です。福島はまだ9万9千人の人が家に帰ることができていません。思いを寄せて下さい。
 最初の質問 長田 弘
 今日、あなたは空を見上げましたか。

 空は遠かったですか、近かったですか。

 雲はどんなかたちをしていましたか。
 風はどんな匂いがしましたか。

 あなたにとって、いい一日とはどんな一日ですか。

 「ありがとう」という言葉を、今日、あなたは口にしましたか。

 窓の向こう、道の向こうに、何が見えますか。

 雨の雫をいっぱい溜めたクモの巣を見たことがありますか。

 樫の木の下で、あるいは欅の木の下で、立ちどまったことがありますか。

 街路樹の木の名を知っていますか。

 樹木を友人だと考えたことがありますか。

 このまえ、川を見つめたのはいつでしたか。

 砂のうえに坐ったのは、草のうえに坐ったのはいつでしたか。

 「うつくしい」と、あなたがためらわず言えるものは何ですか。

 好きな花を七つ、あげられますか。

 あなたにとって「わたしたち」というのは、誰ですか。

 夜明け前に啼きかわす鳥の声を聴いたことがありますか。

 ゆっくりと暮れてゆく西の空に祈ったことがありますか。

 何歳のときのじぶんが好きですか。

 上手に歳をとることができるとおもいますか。

 世界という言葉で、まずおもいえがく風景はどんな風景ですか。

 いまあなたがいる場所で、耳を澄ますと、何が聴こえますか。

 沈黙はどんな音がしますか。じっと目をつぶる。すると、何が見えてきますか。

 問いと答えと、いまあなたにとって必要なのはどっちですか。

 これだけはしないと、心に決めていることがありますか。

 いちばんしたいことは何ですか。人生の材料は何だとおもいますか。

 あなたにとって、あるいはあなたの知らない人びと、あなたを知らない人びとにとって、

 幸福って何だとおもいますか。

 時代は言葉をないがしろにしている――あなたは言葉を信じていますか。

 
学び続けて下さい。考え続けて下さい。あなたの想いを形にしてください、あなたの思いを行動につなげて下さい。今年の夏の参議院議員選挙、18歳で選挙権が付与され、投票する初めての世代、歴史の扉をあける世代になります。日本の進む行方(をよく考えて必ず投票所に足を運んで下さい

今日の卒業を祝ってくれるすべての人に心から感謝し、式辞といたします。

平成28年2月23日 安城学園高等学校長 坂田 成夫